ココナッツの秘密

ココナッツの秘密
ココナッツの生態

ココナッツというと南国の海岸沿いに立ち並んでいるイメージがあるのではないでしょうか?ココナッツはマングローブのように海水を好み、海水に含まれるミネラルを吸い上げてより大きく成長します。もちろん内陸部や山間部など、フィリピンでは農村に行けば至る所にココナッツが自生もしく植林されています。ココナッツは農薬や殺虫剤などは基本的に使わず、 自然な環境で栽培されます。まれにプランテーションでは、肥料代わりに天然の塩を撒いて生育を促すことがあります。

世界的にココナッツの生育地域は東南アジアや、南アジア、中南米、南米、アフリカ西海岸など、赤道を挟んで南北25度以内に集中しています。年間平均気温が20度以上、日照時間が2,000時間以上、降水量も1,500ミリ以上が必要です。ココナッツの木は通常高さが20〜30mあり、幹の太さは大きいもので40cmほどになります。種を植えてからおよそ7年で実がなり、寿命は70年〜80年で、年間平均100個ほどの実をつけます。多いものでは200個の実をつけるものもあります。木の上部には、葉身が長さ4〜7mにもなる葉をつけます。毎年12〜16枚の葉が新しく生まれては3年ほどで役目を終えて木から落ちます。成熟した木にはおよそ30〜40枚の葉がなっています。それぞれの葉には60〜90cmの長さの小葉が250枚ほどあり、1枚の小葉で1日10mlの水を蒸散しています。成熟した木1本では、1日75Lもの水が蒸散していることになります。

葉と葉の間には大きな円錐形の花序をつけ、その先端部は雄花で基部に雌花ができます。1つの木に雄花と雌花ができる雌雄同株の植物で、雄花が雌花より先に開花します。雌花のうちの数個が膨らみ、果実に成長します。果実は若いものは緑色で、外側の繊維も柔らかく胚乳も薄いですが、水分はたっぷり含んでいます。成熟するにつれて、表皮は茶色く繊維が硬くなります。水分は徐々になくなっていき、胚乳も分厚く固くなっていきます。水を飲む場合は若い果実を、胚乳からココナッツオイルやミルクを作る場合は成熟した果実を使います。根は、背の高いココナッツの木を支えるために2,000〜10,000に及ぶ細かな根が土壌の性質に合わせてしっかり根付きます。台風など強い風にも耐えられるよう、根の長さは5〜7mにもなります。

ココナッツからできるもの

ココナッツは実(種子)だけでなく、花や葉、木など、捨てるところがなく様々な製品が生み出されます。実の中では、外側(中果皮)の繊維質からは、家庭でおなじみのたわしや、ロープやマットなどが作られます。硬い内果皮(殻)からはヤシ殻活性炭が作られます。非常に微細な孔をもち、水や空気などの浄化によく利用されています。日本の浄水場や下水処理場でも使われています。胚乳からは、ココナッツオイルやココナッツミルク、デシケイテッドココナッツ(乾燥ココナッツ)やココナッツファイバーなど、様々な食材を作ることができます。また実の中心部には液体があり、そのままココナッツウォーターとして飲用されます。またこの液体を酢酸菌で培養するとナタデココを作ることができます。花からは花蜜を発酵させてトゥバと呼ばれるお酒ができ、さらに発酵が進むとお酢(ココナッツビネガー)ができます。花蜜を採取後すぐに煮詰めることでココナッツハニーやココナッツシュガーができます。葉は編んで家屋の屋根に、木は建材などに利用されています。

ココナッツのうんちく
ココナッツ=ヤシの実?

ヤシの実というとココナッツのことを思い浮かべる方が多いように思いますが、実際はヤシ科の植物には3,000種類以上あります。よく知られたものには、パーム油がとれるアブラヤシ、マングローブ植物の1種であるニッパヤシ、デーツが採れるナツメヤシ、砂糖ヤシやシュガーパームとも呼ばれるパルミラヤシ、籐細工で知られるつる性の籐などがあります。近頃人気のアサイーもワカバキャベツヤシというヤシ科の植物です。ココナッツはココヤシと呼ばれ、数多くあるヤシ科の植物の1種です。ヤシ科の植物は熱帯地方を中心に生育し、食用や生活の一部に利用される有用な植物です。ココナッツはヤシ科の植物の中でも最も有用で利用価値が高いため、その代表としてヤシ=ココナッツをさすことが多いです。

点滴にも使われていたココナッツウォーター

緑色した若いココナッツの実にストローを挿してココナッツウォーターを飲んだ経験がある方も多いかと思います。ココナッツウォーターはマグネシウム、カルシウムなどのミネラルが豊富で、浸透圧も人間の体液に非常に近いため、吸収が早く水分補給に最適です。戦時中、非常時には点滴の代わりにココナッツウォーターが利用されていたことはよく知られています。ココナッツに含まれる酵素の働きが新陳代謝を活性化させてくれるため、疲労回復やデトックス効果が期待できます。その一つがサイトカイニンという植物ホルモンで、細胞分裂を活発にする作用があり、お肌の老化を抑えてくれると注目されています。元々、ココナッツウォーターを植物の培養実験に使用すると、細胞分裂を促すことができることがわかり、そこから研究が進みました。しかし、実際店頭などで販売されているパックされたココナッツウォーターは、熱処理され、保存料などの添加物を含んでいることが多く、注意が必要です。やはりココナッツの実からそのまま飲むのが一番おすすめです。

ナタデココブームで社会問題に

ココナッツウォーターに水や砂糖を加えて酢酸菌で培養すると、独特の歯応えがある食感のナタデココができます。主成分は微生物セルロースという食物繊維の一種で、お通じの改善やカロリーも低いことからダイエット食材としてデザートに利用されています。20年以上前にはメディアでも取り上げられたことから若い女性を中心にブームとなりました。当時、ナタデココはほとんどがフィリピンで作られていました。ブームによって日本の需要が大きく増えたことで、日本の商社はフィリピンの生産者に設備投資をさせ、生産力を増強させました。昔からフィリピンの一部ではナタデココが作られていましたが、多くのフィリピン人にとってナタデココは馴染みがなく、日本人はナタデココを精密機械に使っているのではないかという話がでたほどでした。ナタデココブームは長くは続かず、しばらくすると需要が激減。フィリピンでは莫大な借金を抱えた生産者が残され、多くの失業者が出て当時社会問題となりました。

ココナッツのチカラ

ココナッツからは様々な食材が作られますが、それぞれ栄養価が高く、人々の健康に貢献しています。

ココナッツオイル

代謝が早くエネルギーになりやすい中鎖脂肪酸
ココナッツオイルにはラウリン酸をはじめ、天然の中鎖脂肪酸が豊富に含まれています。中鎖脂肪酸は体内で燃焼しやすく、消化吸収が早く脂肪になりにくい優れた脂肪酸で、一般的な植物油に含まれる長鎖脂肪酸と比較して消化吸収は4倍、代謝は10倍のスピードで分解・燃焼されます。中鎖脂肪酸は、体内に取り入れられたのち長鎖脂肪酸とは異なった経路で肝臓まで運ばれます。長鎖脂肪酸は腸管からリンパ管、静脈を通って脂肪組織、筋肉、肝臓に運ばれ体内に脂肪として貯蔵され、その後必要に応じてエネルギーとなります。一方、中鎖脂肪酸は腸管から門脈を通って直接肝臓に運ばれるため、脂肪として蓄積されずに効率良くエネルギーに変換されます。長鎖脂肪酸と比較して、中鎖 脂肪酸は消化吸収が4倍、代謝が10倍早いのが特徴です。カロリーも、通常脂肪は1gあたり9kcalとされ、食品などではそのように計算されますが、実際のところ中鎖脂肪酸は1gあたり6.9kcalしかないという研究報告がされています。

トランス脂肪酸ゼロ
血中の悪玉コレステロールを上昇させ、動脈硬化や心臓疾患の等のリスクがあると言われるトランス脂肪酸(TFA)も全く含んでいません。トランス脂肪酸は、水素添加された硬化油や精製植物油、加工油脂などで発生します。デンマークでは2004年に工業用トランス脂肪酸を脂肪の2%以内にする法律を施行したり、アメリカ・カナダでも表示義務が課され、カリフォルニア州では飲食店などでトランス脂肪酸(TFA)を全面規制する州法が成立するなど、世界で規制の動きが広がっています。日本でも、2011年になり消費者庁からトランス脂肪酸の含有量表示に関するガイドラインが発表され、セブン&アイグループがトランス脂肪酸を使った製品を排除すると発表するなど、トランス脂肪酸の摂取を抑制する動きが起こっています。酸化安定性が高く、加熱料理に適しています。酸化安定性が高く熱に強いココナッツオイル。それはココナッツオイルが植物性油脂には珍しく、飽和脂肪酸を非常に多く含んでいるからです。ココナッツオイルは90%以上が飽和脂肪酸です。油脂の成分は「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」に分かれますが、飽和脂肪酸は酸化に強く、不飽和脂肪酸は酸化に弱い性質を持っています。 一般的に料理に利用されるオイル(油脂)の脂肪酸組成は以下のようになっています。ほとんどの植物油や魚の油は不飽和脂肪酸が大部分ですが、ヤシ油(ココナッツオイル)は90%以上が飽和脂肪酸で非常に安定したオイルです。

ココナッツシュガー

ココナッツシュガーはココナッツの花蜜(樹液ともいう)を煮詰めただけの天然糖。血糖値の上昇度合いがゆるやかな低GIで、カリウムやマグネシウムなどのミネラル分が豊富。原料となるココナッツの花蜜は発酵すると「トゥバ」と呼ばれるお酒として愛飲され、長生きの秘訣とも言われています。
※グリセミック・インデックス(GI)…グルコース(ブドウ糖)を100として血糖値の上昇度合いを表した値。

ココナッツオイルの歴史

フィリピンをはじめとした東南アジアだけでなく、インドやスリランカなどの南アジア、ポリネシアやミクロネシア、中央アメリカなどでも、昔からココナッツは主食として日常の食事に利用されてきました。インドのアーユルベーダでは何千年も昔から医療としてココナッツオイルが使われたり、パナマでは病気の際にはココナッツオイルを何杯も飲むなど、各地で治療や薬としてもその価値が認められてきました。実際、古い医学書にもココナッツオイルの記述が多く見つかっています。しかし、つい最近までココナッツオイルが悪者扱いされる時期があったことをご存じない方が多いかもしれません。それはアメリカの大豆協会によるロビー活動が原因でした。スペインからフィリピンを手に入れたアメリカは、フィリピンの農地の70%で栽培されているココナッツがフィリピン人の健康に寄与していることに気づき、ココナッツオイルを食用油として、マーガリンやショートニングの原料、石鹸などの原料として輸入し始めました。フィリピンからアメリカに向けたココナッツオイルの輸出は1919年にはフィリピンの貿易収支の40%近くまで達しました。

そんな中、1930年代に入るとアメリカ国内の大豆オイルなどの植物オイル製造業者と酪農業界はフィリピン産のココナッツオイル輸入に反対するロビー活動を展開します。そして1934年、アメリカ下院はこれまで無税で輸入されていたココナッツオイルに税金を課し、ココナッツオイルの価格は3倍に上昇してしまいます。これによってココナッツオイルは競争力を失い、一時フィリピンの生産者が大きな被害を受けました。フィリピンがアメリカから独立して20年後の1966年までこの課税は続きますが、その後ココナッツオイルの優位性は他のオイルでは代用できず、ココナッツオイルのアメリカへの輸出は発展していきました。

その後ココナッツオイルの優位性は他のオイルでは代用できず、ココナッツオイルのアメリカへの輸出は発展していきました。1960年代から70年代にかけて、ラードなどの動物性脂肪に含まれる「飽和脂肪酸」が動脈硬化や心臓病の原因になるという研究結果が発表され、飽和脂肪酸は体に悪いものと認識されていました。ご存知の通りココナッツオイルの90%以上が飽和脂肪酸ですが、実際にはラードなどの動物性脂肪に含まれる長鎖の飽和脂肪酸と、ココナッツオイルに含まれる中鎖の飽和脂肪酸とではその性質が著しく異なります。植物性の中鎖脂肪酸には様々な健康効果が期待されていますが、しかしそのような違いは認識されませんでした。